但馬牛は兵庫が守ってきた「純血の血統」——和牛のルーツを牧場直営店が語る
松阪牛、近江牛、神戸ビーフ。名前は異なっても、その血を辿っていくと、ひとつの場所にたどり着きます。兵庫県の山間部、美方郡を中心に育まれてきた但馬牛(たじまうし)です。
「和牛のルーツ」とも呼ばれるこの牛を、牧場直営店 玉家は地元・兵庫の精肉店として長く扱ってきました。この記事では、但馬牛の歴史と血統管理の仕組み、そして私たちが但馬牛にこだわる理由をお伝えします。
明治時代から始まった「血統の守り方」
但馬牛の歴史は平安時代にまで遡ります。農耕や運搬を担う牛として優れた資質が認められ、記録にも「耕運、輓車、食用に適す」と残されています。
転機となったのは明治30年(1897年)頃のことです。美方郡で全国に先駆けて牛の血統登録「牛籍簿(牛の戸籍)」が整備されました。
牛一頭一頭の素性を記録し、他府県の牛との交配を絶つ閉鎖育種を実施。以来100年以上にわたって、但馬牛は但馬牛だけと交配を重ねてきました。
この美方地域で受け継がれてきた但馬牛飼育の仕組みは、「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」として、2019年2月に農林水産省の日本農業遺産に、さらに2023年7月には国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。「全国に先駆けて牛籍簿を整備し、郡内産にこだわった和牛改良によって独自の遺伝資源を守ってきた」ことが高く評価されています。
なぜ「閉鎖育種」にこだわるのか
外の血を入れない——この方針は、品質を高めるために非常に重要な意味を持ちます。
牛の肉質は、遺伝的な要因に大きく左右されます。外部の血を入れると特性がばらつくため、一定水準の品質を保ちにくくなります。但馬牛の閉鎖育種は、この問題を避けるために設計された仕組みです。
結果として、但馬牛は骨が細く、皮下脂肪が少なく、良質な筋繊維を持つ牛として確立されました。きめ細かなサシが入りながらも赤身の味わいが際立つのは、この血統管理の賜物です。
「どの和牛よりもルーツが明瞭な純血の血統」(JAたじま)——これは単なる宣伝文句ではなく、100年以上かけて築かれた事実です。
全国の銘柄牛の「素牛」として全国へ
但馬牛の純血の血は、兵庫県内にとどまらず全国へと広がりました。
松阪牛、近江牛、そして神戸ビーフ。これらの銘柄牛はそれぞれの土地で肥育されていますが、素牛(もとうし)——つまり素材となる牛——の多くが但馬牛です。各地へ旅立った但馬牛が、その土地の生産者に大切に育てられ、最高の状態で出荷されたものが有名銘柄牛として評価を獲得してきた歴史があります。
なかでも神戸ビーフは、但馬牛の中から兵庫県内で肥育・出荷され、枝肉格付けなどの厳格な認定基準をクリアしたものだけが名乗れるブランドです。「神戸ビーフは但馬牛から生まれる」——この言葉は、但馬牛という土台があってこそ成り立つものです。
牧場直営店だから伝えられること
私たちは自社牧場を持ち、肉になる前の段階から牛を見てきました。どの牧場で育ち、どんな飼料で肥育されたか
——そういった背景を知っているからこそ、お肉を自信を持って選んでお届けできます。
但馬牛を扱う際も同じです。血統管理の歴史や産地の物語を知っているからこそ、「これは良い但馬牛です」と自信を持って言えます。
私たちが選んだ一頭の話をお客様にできるのが、牧場直営店ならではの強みだと思っています。
地元・兵庫で100年以上守られてきた但馬牛の血統は、私たち玉家にとって「足元にある宝」です。
その価値をこれからも丁寧にお伝えしていきます。
まとめ
- 但馬牛は明治30年(1897年)頃に「牛籍簿」(全国に先駆けた牛の血統登録)を整備し、他府県との交配を一切絶つ閉鎖育種で純血を守ってきた
- この美方地域の飼育システムは2019年に日本農業遺産、2023年に世界農業遺産(GIAHS)に認定されている
- 松阪牛・近江牛など全国の有名銘柄牛の素牛として供給されてきた「和牛のルーツ」
- 神戸ビーフは但馬牛の中から厳格な認定基準をクリアしたものだけが名乗れるブランド
- 骨が細く良質な筋繊維を持ち、きめ細かなサシと赤身の旨さが特徴
- 玉家は自社牧場を持ち、肉になる前から牛を見てきた目で肉を選んでいる
参考にした資料